MOCHI cube® – 四角い大福が生まれた話(後編)
それがここ、鳥取県鳥取市である。
その”原因”となったのが、100年以上の歴史を持つ鳥取市の老舗和菓子店、宝月堂のMOCHI cube®。その名のとおり、四角い(cube)大福(MOCHI)。なぜ、伝統的な和菓子屋がこんな突飛な商品を生み出したのか。そしてなぜそれが地域に受け入れられ、浸透していったのか。5代目店主の佐々木稔郎氏に話を聞いた。
(「前編」からの続きです)
和多瀬(以下、和):最初から四角い大福をつくろうと思ってたんですか?
佐:宝月堂 5代目 佐々木稔郎(以下、佐):違います。最初決まっていたことは「生クリーム大福」をつくるということだけです。ただ、先ほども話したように、僕が東京で学生をやっていた頃から「生クリーム大福」という菓子は世の中に存在していたわけです。すぐに着手して発売したとしてもかなりの後発だから、よそと同じものをつくっていても誰も注目してくれませんよね。
和:確かにそうですね。
佐:とはいえ「うちのが一番美味しい」と言っても、どこもそう思ってつくっているし、美味しさは人それぞれで主観的なもの。だから誰が見ても違うものにしなきゃ差別化できないわけですよ。
和:それで誰が見ても「四角い」大福をつくることになったと。
佐:はい。「今まで誰も見たことのない」そんな大福です。ただ、そのアイディアにいたるのはもう少し先なんですけど。
和:まずは中身ですよね。
動物性にこだわった生クリーム
佐:MOCHI cube®は「生クリーム」と「あん」、それから「もち」の3つの要素からできています。でも「生クリーム大福」ですから、やっぱり生クリームの美味しさを味わってほしいお菓子なんですよ。
和:MOCHI cube®は、地元鳥取県の大山乳業の動物性純生クリームをつかってますよね。
佐:そうです。ただし、導入した機械のメーカーからは「動物性の生クリームだと脂肪分が高いため分離してしまって使えません。使えるのは脂肪分の低い植物性の、いわゆるホイップクリームです」と言われていました。
和:動物性と植物性では、生クリームの美味しさが違うものなんですか?
佐:明らかに違います。美味しいかどうかは好みですが、そもそも生クリームと謳ってよいのは、動物性脂肪=生乳のみを原料としたものだけなんです。高価ですが、乳本来の風味とコクに優れています。
和:でも、メーカーの方から使えないと言われたんですよね?
佐:はい、導入を予定していた生クリームを注入するポンプのメーカーの担当者は「使えない」と断言しました。でもここは妥協できませんでした。なぜならば、さっきも言いましたが「生クリーム大福」は生クリームの美味しさを味わってほしい菓子です。ここを妥協するなんてありえない。
和:要となる素材ですもんね。
佐:そこで、製菓学校時代の友人に相談したり、自分でもひたすら試行錯誤を繰り返しました。メーカーができないと言うことをこちらで勝手に「いや、できるはずだ」とやってるわけですから、当然簡単にはいかない。
和:そりゃそうですよね。
佐:でも、できたんですよね(笑)。
和:おお!
佐:様々なことに注意する必要があって神経を使うし、かなり手間もかかりますが、できました。動物性の純生クリーム100%でできたんです。
和:メーカーの方もどうやって実現したのか、知りたいでしょうね。
佐:教えませんけどね(笑)。
自家製のMOCHI cube®専用の餡
和:生クリームの問題はクリアできたわけですね。「餡」はどうでしょう?
佐:もともと宝月堂は餡にこだわる和菓子屋で、小豆の製あん作業は自社で行っていました。手間ひまをかけていますし、美味しさには自信を持っています。MOCHI cube®でも一部それを使っているんです。
和:餡がMOCHI cube®のフレーバーの種類になるわけですよね。
佐:半分正解、半分不正解、ですかね。
和:と言いますと?
佐:「あずき」は先ほど説明した自社で製あんした小豆の生あんにあえて白あんを混ぜ、生クリームとのバランスを整えています。「抹茶」、「珈琲」、そして夏季限定の「ラムネ」は、白あんをベースに味付けし、自社で練り上げています。
和:なるほど。
あずき
抹茶
珈琲
ラムネ(夏季限定)
佐:一方、「生チョコ」と「レアチーズ」は、餡ではないんです。「生チョコ」は高価な生チョコをそのまま使用し、餅のまわりにはココアパウダーをまとわせています。高級ショコラのような味わいですね。「レアチーズ」も、クリームチーズにレモン果汁や生クリーム等でつくった自社製フィリングを使っています。レアチーズケーキを表現、イメージしたものです。
生チョコ
レアチーズ
和:当然のことながら一つひとつ違うわけですね。考えるのも作るのも大変ですが、フレーバーの種類が多いと客には選ぶ楽しみが出てきますし、商売的にもいいですよね。
佐:別の味を出さないんですか? と聞かれることも多いですね。
和:美味しいお菓子の別のフレーバーがあれば、当然食べてみたくなりますもんね。
佐:種類を増やすことを優先させればもう少し早いペースで増やすこともできると思うんですが、美味しさについては徹底的にこだわっているので、なかなか新しいものをリリースできずにいます。
和:現在はさきほど教えていただいたとおり、6種類ですよね。目標は何種類、とかありますか?
佐:MOCHI cube®は小豆、抹茶、珈琲の3つのフレーバーで販売を開始したんですが、1年後に生チョコをラインアップに加え、昨年末にレアチーズ、この春にラムネをリリースという感じです。僕ももう少し良いペースで出せると思ってたんですけど。なかなか難しいですね。
柔らかさを追求した餅
和:最後、いちばん外側にくる餅についての話も聞かせてください。
佐:MOCHI cube®を食べた人に感想を聞くと「すごく柔らかい」という声をいただくことが多いですね。
和:こんなに四角いのに(笑)。
佐:そう。四角というカタチ、見た目とのギャップもあるのかも知れません。でも、この柔らかさはしっかり意識してつくり上げてきたんです。
包餡機から出てきたMOCHI cube®を手で引き伸ばす。非常に柔らかい。
和:大福でもけっこう噛みごたえというか、餅の食感がしっかりしているものもありますよね。
佐:一般的な大福は、ついたお餅のコシや弾力を楽しむものですが、僕がMOCHI cube®に求めたのは、究極の柔らかさなんです。求肥と呼ばれるタイプの餅で、あえてコシを切り食どけを重視しました。
和:柔らかさにこだわるのは、柔らかいほうが美味しいから、ですか?
佐:生クリームや餡はもともと柔らかいものですから、食べてしばらくすると、口の中からすっと消えていきます。ところが餅が硬いとそれだけが口の中に残ってしまう。作り手としては、生クリームの余韻を楽しんでほしいのに、最後に残るのが餅で、しかもたくさん噛まないと飲み込めないとなると、自分が理想とする食感ではなくなってしまいます。
和:なるほど、生クリームと餡、餅が同じようなタイミングで口の中から消えていくためには、餅も柔らかくする必要があるわけですね。
佐:はい。餅そのものが柔らかいだけでなく、厚みも重要になってきます。餅の存在感が弱いと今度は大福ではなくなってしまうからです。味や食感、溶けていくタイミングなど、生クリームと餡、餅の3つがちょうどいいバランスで存在する必要があるんです。
和:聞いてるだけで、これは大変だなと感じますね。
佐:難しい作業です。これも試行錯誤を繰り返すなかで、ようやく「このバランスだ」というところに辿り着きました。
和:「生クリーム大福」は完成した。これを四角いかたちにして、いよいよMOCHI cube®になってくわけですね。
佐:はい。いま、餅の柔らかさの話をしましたが、MOCHI cube®は柔らか過ぎて、つくったあと放っておくとすぐに自分の重さでぺったりと潰れてしまうんです。だから、機械から出てきたら粉を振って何かしらの型に入れ、冷凍しておく必要があります。
包餡機から出てきたMOCHI cube®。自重でぽてっとした形状に変化する
和:その型が四角というわけですね。
佐:はい。丸いのが当たり前の大福を四角い形にしてみたら面白いんじゃないかというアイディアは、それまでも暖めていたんです。で、冷蔵庫で使うような製氷器や木で作った枠なんかを試したんですが、どれも上手く行きませんでした。
和:いま使っている型はどのようにして見つけたんですか?
佐:研修に参加していた時、会場に四角い型があるのを見かけたんです。サイズもちょうどいいし、素材も良さそう。見た瞬間に思いましたね。「あ、これは使えるぞ」と。ちなみに、イタリア製の輸入品です。
和:運命の研修ですね。
佐:和菓子では使うことのない素材や形状の型でしたので、あの研修に参加していなかったら、MOCHI cube®は生まれてなかったかも知れません。
和:なにがキッカケになるか、本当に分からないもんですよね。
佐:そうですね。研修から帰ってすぐに同じ型を探して調達し、試作してみたんです。
和:やはり、いきなりは無理?
佐:いえ、想像したカタチのものができました(笑)。
和:良かった!
佐:柔らかさを追求していたことが功を奏したんです。柔らかいからこそ、大福が四角い型に沿って隙間なく収まるわけですね。少しでも今より硬めの餅にしていたら、角がきちっと出ていなかったと思います。
和:美味しさのために追求していた餅の柔らかさが、この四角いカタチを生み出すためにも必要な条件だったわけですね。面白いなぁ。
佐:その時は無我夢中と言うか、目の前にある問題をクリアするのに必死になっているわけですが、そのどれか一つでも違っていたら、もしかするとMOCHI cube®は生まれていなかったかも知れません。
和:そうですよね。でも、考えていた「生クリーム大福」が完成したら、もうあとは売り出すだけですよね。
佐:実はそうではなく、その後も、粉を均一に振りかけるための機械を購入したり、包装するための機械を職人さんにワンオフ制作してもらったりと、商品化するためのステップは、商品以外にも山ほどありました。
和:そうか。家でお客に振る舞うお菓子とは違って、個包装に加えて贈答用の箱なんかも必要になるんですもんね。
佐:実際に動きはじめてから販売に至るまでに、18か月以上とかなりの時間を要したわけですが、なんとか2013年9月に店頭販売を開始できました。
和:制作秘話を聞いてから食べると、また格別に美味しく感じますね(笑)。
佐:苦労して作り上げたものだから食べてほしい、なんてことは言いたくないですが、材料や品質、見た目の面白さ、柔らかさ、そして美味しさは本当に手を抜くことなく考え抜いて、やり抜いてつくったMOCHI cube®なので、多くの方に楽しんでもらえたら嬉しいですね。
和:ありがとうございました。
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もちキューブの12個入りをLINEのバレンタインギフトで娘夫婦に送りました。とても美味しかったと大喜びしてくれて、来年もこれが良い!とリクエストされました。来年もLINEギフトに、もちキューブがあると嬉しいです!
仲 祐子様、コメントありがとうございます。
また当社のMOCHI cubeを贈答にご利用くださり、まことにありがとうございます。喜んでいただけたようで、私たちも大変嬉しく思います。
今後ともどうぞよろしくお願いいたします。